「青い空の真下で(前編)

 

 

 小さく質素な名もない町。機械化が盛んな時世には珍しく、

古風なデザインの家が立ち並ぶ。町の中心には大きな草原。心地良い風に

合わせて、サラサラと心地良い音を奏でる。

 草原の真ん中に、一人の少年が立っている。少年は、何をするわけでもなく

ただ上だけを見ていた。少年の目には大きな空が映っている。

少年の瞳には、青く雄大で、限りなく広い空が映っている。

 

    ――――十数年後――――

 

 そこは、大きな砂漠に、いくつかの建造物が点在するハンターベース砂漠支部。

そこのすぐ近くで、一機の飛行機が墜落した。見たことも無い形で、恐らく新型と予想される。

ハンターは乗員の救出の為、一人のレプリロイドを向かわせた。

 

 ソニック・オストリーグ。かつては第七空挺部隊に所属していたが、事故で

任務時の飛行中に落下。一命はとりとめたものの、空に対し恐怖感を覚えてしまう。

耐え切れず彼は空挺部隊を辞退。「空を見ようとしない男」となった。

現在はその俊敏な走力を見込まれ、砂漠支部の欠員の穴埋めの為、臨時で入隊している。

 

「・・・俺に墜落した飛行機の乗員救出か。・・・嫌がらせか?」

 

 つい昔のことを思い出してしまい、やや不機嫌になるも、まっすぐ現場に向かう。

現場に着くと、飛行機から大量の煙が昇っているのが見えた。乗員の呼吸困難を危惧し、

素早く乗員を引きずり出す。意識が無いので、急いでハンターベースへ運ぶオストリーグ。

 

 

   ――――ハンターベース――――

 

 乗員は人間用の医務室に保護された。何とか救出は成功。彼はゆっくりと

ベッドの上で養生しているらしい。それを聞いて安心したオストリーグも、

リフレッシュルームにて一休みする。

 しばらくすると、一人の人間が部屋に入ってきた。先ほど救出した乗員の男である。

彼はオストリーグの姿を見つけると、彼をじっと見つめていた。

 

「な、何だよ・・・?」

「助けてくれたの、アンタだろ? ありがとうって礼が言いたくてな。」

「ああ、お前か。もう体は大丈夫なのか?」

「ああ。元々タフだから、オレ。」

「そ、そうか・・・(そういうモノかぁ・・・?)

「アンタ・・・名前は?」

「俺か? ソニック・オストリーグだ。」

「俺はダニエルだ。じゃ、改めて。助けてくれてありがとうな、オストリーグ。」

 

 ダニエル・クリストフ、通称ダニー。航空機会社のテストパイロット。

21歳。空を見つめていた少年は彼である。昔から、「空しか見えない男」だった。

 

「じゃ、また後で。」

「ん? ああ。」

 

 部屋を出て行くダニー。やや戸惑い気味ながら、オストリーグは彼を見送る。

「空を見ようとしない男」と「空しか見えない男」が、今ここで出会った。

 

「なんつーか・・・変わったヤローだな・・・」

 

    ――――ハンターベース:整備室――――

 

 整備室では、先ほど回収されたダニーの機体が修理されている。新型だからか、

もしくはレプリロイドやメカニロイドの幅広い活躍による有人機の減少ゆえか、

珍しがって見に来る者が多かった。そんなヤジ馬の中にオストリーグの姿も見える。

 

「航空機・・・か。そういや昔、人間の乗ってる飛行機の護衛とかもやってたっけな・・・

 ・・・んん? なんか今日はやけに昔の・・・それも空の事を思い出しちまうな・・・」

 

 彼にとって、もう空は自分の居場所ではない。その悔しさゆえに、過去を思い出すのを

出来るだけ避けていたはずだった。気がたるんでいると、自分に喝を入れるオストリーグ。

そこへ、ダニーがやってきた。ヤジ馬の群れを抜け、オストリーグの隣に立つ。

 

「やっぱ飛行型のレプリロイドには、人間の飛行機とは縁が無かったりするのかい?」

「! ダニエルか・・・ビックリさせやがって。」

「ダニーでいいよ。で、どうなんだい?」

「無いこたねェよ。むしろ護衛だとか、追跡だとか・・・他の奴らよか縁はある方だ。」

「へェ、予想外。」

 

 さりげなく会話した中で、ふとオストリーグは思った。今日、やけに昔の事を

思い出してしまう・・・もしやこの男のせいか? 救出の時といい、今といい・・・

なにかとこの男に過去を引っ張り出されている気がする、と。

 

「コイツが墜落したの、整備不良のせいかもしんないんだってさ。通りで

 エネルギーに余裕あんのにブースターが切れるワケだよ。勘弁してほしいよなァ。

 新型のテスト飛行でいきなりパイロット死にかけさせるなんてさァ・・・」

 

 ダニーの話は続く。一度そう思ってしまうと、オストリーグにはダニーの話が何だか

煩わしいモノとして聞こえるようになってしまった。活き活きと語るダニーに、オストリーグは

一つの問いを投げかけた。

 

「お前・・・空が好きなのか?」

「え? な、何だよイキナリ・・・??」

「答えろ。」

「決まってんだろ、大好きだよ。俺がパイロットになったのだって・・・」

「ちっ、やっぱりな。」

 

 ダニーの答えを聞いた途端、オストリーグの表情が歪んだ。そして、

突然の問いかけに戸惑うダニーに言葉を続けた。

 

「悪いが、俺の前でテメエの好みをそんなベラベラと語るな。俺は・・・空が嫌いだ。」

 

 そう強く言い放ち、整備室を去る。取り残されたダニーの表情は

先ほどまでと変わらず戸惑っていた。まだ上手く理解していない様だ。





<制作者コメント>
これは、人間を出したいなーって事で書いたモノです。
人間とレプリロイドの友情モノが書きたいなーって。
そこから「人間は飛行機乗り」「空大好き君」「レプリロイドはオストリーグ」
と順当に決まって、そしてこんな話に。何かオストリーグの性格が
それっぽくないですね(−−;




<管理人コメント>
おおっ! なんかすごいです! 心が動かされます!
ジラードさんの小説、やっぱ好きだなぁ〜♪
今回の主役はオストリーグなんですね。
飛べなくなった彼の心情が細かく描かれていて、見ているこちらも涙目になってしまいます(><)
空が大好きなダニーとの触れ合いで、彼がどう変わっていくのか見物ですね。

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